最高裁判所第一小法廷 昭和28年(オ)91号 判決 1957年6月20日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人弁護士高橋義一郎、同鈴木紀男の上告理由
第一点について。
所論の原判示はいささか明瞭を欠くが、その趣旨とするところは、被上告人は本件傷害により治療費を支払うべき債務を負担するに至つたもので、そのこと自体がとりも直さず損害と認むべきであり、親権者両名はこれを立替弁済したものと認むるを相当とするというのであつて、しかく判断すること必ずしも不当であると言うを得ないばかりでなく、その説明の過程に所論の矛盾又はくいちがいを発見し得ない。そしてまた原判決は、右立替による返還請求権を被上告人固有の権利なるが如く解釈し権利の帰属を誤つたものでもない。所論は畢竟原判決を正解しないものであつて採るを得ない。
第二点について。
所論の原判示も亦明確を欠くが、その趣旨とするところは、その引用する第一審判決と相俟つて、本件事故当時被上告人が年令一〇歳五ケ月に達していたとしても事理弁識の能力を備えなかつたものと認むるを相当とすべく、従つて被上告人に過失があつたものと断ずるを得ないというのであつて、しかく判断することも亦必ずしも不当というを得ない。所論は畢竟独自の観点に立つて原判決を攻撃するもので採るに足りない。
第三点について。
しかしながら、年令一〇年五ケ月に達した小学校五年生だからと言つて、必ずしも事理弁識の能力を備えているものと断定しなければならないものではない。所論民法七一二条は未成年者が他人に損害を加えた場合の規定であつて、本件のように未成年者が被害者となりその過失に基いていわゆる過失相殺を論ずべき場合に適用すべき規定ではない。所論も亦採用できない。
よつて民訴法四〇一条、八九条、九五条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)